756 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 01:01:27.59 ID:Cfo2egVa0
「さて、それでは前原さん。貴方はメイドという存在をどう思いますか?」
「え、め、メイドって…いや、その、実物を見たことはなくt」
「ないのですか!それは嘆かわしい!見なさい!この神々しい衣装をッ!」
そう言って入江はどこからともなく…いや、持参した治療カバンの中からメイド服を取り出した!?
この男ッ!常備しているッ!メイド服をッ!常備!!!しているッッッ!!!
「さぁ、手に取るのです。恐れることなくッ!そう!プリーツのひだは壊してはなりませんッ!
 そしてそのレースをッ!襟元をッ!余すところなく知ってください!」
「は、はぁ…」
「まだお分かりにならないッ!?前原さん、貴方はこれだけの人材に囲まれていながら、
 毎日何を!何をッ!!何をしているというのですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「えっ…そ、素材…?」
「この4人がッ!いいえ!詩音さんが!知恵先生が!貴方にこれを着て一礼し、
 『お帰りなさいませ、ご主人様』と!それだけのことを言わせられる環境とチャンスがありながらぁ〜!
 貴方はッ!一体ッ!何をしているというのですかァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!ご、ごめんなさいッ!」

「圭ちゃん、12秒。」

757 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 01:02:22.86 ID:Cfo2egVa0
「…え?」
圭一は魅音のその一言で我に返る。
気がつけば圭一は頭を抱えて後ろに仰け反っていた。…直立して。

「いやぁ…男の子だからもうちょっと持つかな〜なんておじさん思ってたけど。
 案外脆いねぇ?け・い・ちゃ・ん?」
「はぅ〜…圭一君にそんなこと想像されてたなんて…レナ、ちょっと恥ずかしいかな、かな」
「ちっ、違うんだレナっ!あれは、か、監督が勝手に…」

そんな微笑ましいやり取りをしている集団をよそに、露伴は薄く笑んだ。
…そういうことか。ならばッ!僕にはッ!鉄壁の攻略法があるッ!
それまで、他の奴らがどう対抗するか、精々見物させてもらうさ…。

「さ、次はレナだ!がんばれ、レナ!」

770 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 01:33:17.10 ID:Cfo2egVa0
「はぅ〜…。よ、よろしくお願いします…」
「竜宮さん。あなたは可愛いものがお好きとお聞きしましたが、
 メイドさんは可愛いと思いますか?」
「はぅ〜。メイドさんはかぁいいよねぇ…」
「それはお話が早い。では!貴方にはこれを託す価値があると判断しました。
 遠慮せずにお受け取り下さい。あ、腰は浮かさなくて結構!」
そう言って入江はビニールでパッケージされた30cm四方ほどの何かを二つ、レナに手渡した。
どこから取り出したかなんて聞くまでもない。先ほどの治療カバンからだ!
「はぅ…監督、これは何ですか?」
「ぃよっくっぞッ!訊いてくれました竜宮さんッ!
 これはですね、沙都子ちゃんと梨花ちゃんのサイズにピッタリのメイド服なのですッ!」

771 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 01:35:36.99 ID:Cfo2egVa0
「「「え、えぇぇぇぇ〜〜〜っ!!?」」」

「なななな、なんで監督がこんなものを持ってますの〜〜〜〜っ!?」
「愚問です。私はいつでも、沙都子ちゃんと梨花ちゃんのご主人様になる覚悟は出来ているッ!
 しかぁし!彼女なら、竜宮さんならッ!彼女達をよりかぁいいメイドさんにしてくれるとッ!
 その資質を!才能を見たッ!私の中の矢が、彼女を示したと言ってもいいッ!
 さあ、想像してください竜宮さん…。

 その者黒き衣と白きエプロンドレスを纏い、かぁいいものコレクションの中に降り立つべし…ッ」

レナの頭から何かが吹き出たッ!
そしてレナは…ゆっくりと振り向きながら…何かを呟くッ!

「ぉ…」
「ど、どうした、レナ…?」
「ぉん持ち帰りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

772 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 01:36:34.42 ID:Cfo2egVa0
落ちた。いや、正確を期すならば、堕ちた。
レナはそのまま椅子を蹴飛ばし、沙都子と梨花を両手に抱え、教室中を走り回る!
その動きはもう止められないッ!
一応、圭一は、「23秒…だよな?」と魅音に確認を取っている。
魅音も、こくこく…と頷きつつ、暴走するレナを見ることしか出来ない状態だ。

露伴は、その完璧な仕事を前に、深く嘆息する。
この男…油断ならないッ!

780 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 02:08:43.45 ID:Cfo2egVa0
そしてようやくのこと、レナから開放された沙都子が入江の前に座る。
もうはっきり言って逃げ出したいのが、表情でもバレバレだ。
露伴はその様子を見やりながら、おかしいやら微笑ましいやらで自然とニヤついている。
羽入はそっとその露伴の表情の変化を見て取り、何も言わずに極上の笑顔で見守った。

「沙都子ちゃん…」
「ひっ…な、何ですの、監督…」
「先ほどの失態…深くお詫びいたします」
「へっ?」

「私は…大事なことを忘れていたような気がします…。
 ご主人様たるもの…仕えるメイドを不快にさせるようなことはしてはいけない…」
「そ…その理屈には何だか納得がいきませんけど…
 わかっていただけたのでしたら、それでいいんですのよ…」
 
781 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 02:11:13.60 ID:Cfo2egVa0
「と、いうわけで〜♪
 こちらが新しく用意した、沙都子ちゃん専用のメイド服ですよ〜☆」
そういって入江は、治療カバンから新しくピンクのフリフリのメイド服を取り出したッ!?
もうあのカバン、メイド服運搬専用だろう。絶対。露伴はカバンに対する認識を改めた。
「いやぁ、沙都子ちゃんにはもっと可愛らしいデザインの方がよかったですよねぇ〜☆
 ご主人様とあろうものが、それくらいのことにも気付けず、真に申し訳ありませんっ♪
 あ、オプションとして『さとこ☆』と書いてある名札の方もご用意させていただき…」
「な、な、な…」

「何を言ってますの〜〜〜〜っ!この変態監督〜〜〜〜っ!」

思いっきり沙都子は監督を殴り飛ばしたッ!
その下からかち上げる拳の軌跡はまさに昇竜の如しッ!

その一撃を見た部活メンバーは後にこう語ったという…ッ!
あの妙技はまさに

昇   竜   拳  

782 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 02:13:05.30 ID:Cfo2egVa0
「…魅ぃ。沙都子は17秒でいいのですか?」
「うん…いいと思うよ…。いやぁ…あの一撃はおじさんでも見切れないだろうなぁ…」
トラップマスター、沙都子の恐るべき一面を垣間見た部活メンバーは、
それからしばらくは皆が沙都子をからかうのを自粛したというのは、また別の話である。

ここまではぶっちぎりで圭一が最下位。
果たしてこの時間を上回る技を入江は繰り出してくるのだろうかッ!?
露伴はそろそろ自分のための準備を始めるべく、自分の荷物を引き寄せた。
羽入はそれを、先ほどと変わらない笑顔で見守っている。

800 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 02:49:49.90 ID:Cfo2egVa0
沙都子のアッパーをモロに受けた入江だが、
その後なんと背中から跳ね起きるという荒業を見せ、メンバーは安堵の表情を浮かべる。
ただ露伴だけは、表情すら変えることもなく様子を見守っていた。

そして、4番手。
魅音が自信満々にニヤニヤと笑いながら、入江の前に腰掛けた。
「さぁ、私には今までのような小細工は通用しないよぉ〜?
 監督、どんな話をしてくれるのかなぁ〜?」
「魅音さん。…言葉は要りません。」
そういって入江はおもむろに治療…いや、メイド服カバンから何か小さなものを取り出す。
あれは何だ…?…写真?それも少なくない枚数…

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!??」

それを見た瞬間。
あの魅音がッ!卒倒したッ!?

「っこっここっこここここ、これ、これなにぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

802 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 02:51:08.45 ID:Cfo2egVa0
「ど、どうしましたの魅音さん!?」
「み〜。魅音の顔がタコさんみたいに真っ赤っ赤なのです。ちゅ〜ちゅ〜、たこかいな、なのです」
「はぅ〜?魅ぃちゃん、大丈夫かな?かな?」
「お、おい魅音…?何を見たんだ…?」

部員の心配そうな顔を見た魅音が、ハッ!とした顔になって手にした写真を後ろに隠し、
「なななななな、何でもないよ皆!あ、あっはっはっはっは!」
「みぃ。その挙動が何でもなくないのです。怪しいのです」
「どうしましたの?それ、写真ですわよね?」
「あっ、こ、これは!な、なんでもないよ!」
「はぅ〜、怪しいなぁ魅ぃちゃん。それ、レナ達にも見せてほしいかな、かな!」
「そうだぜ魅音。部員同士隠し合いはなしだぜ。俺達にも見せてくれよ」
「ぜ、絶対だめぇぇぇ〜!特に圭ちゃんにはダメダメダメ〜〜〜ッ!」

部活メンバーはそのままバタバタと、魅音を先頭にしたおっかけっこを始めてしまった。

803 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 02:52:01.78 ID:Cfo2egVa0
「…入江先生」
「何でしょう?露伴さん」
「不躾な質問ですが…あの写真は一体…」
「おや?見えてしまいましたか?」
「漫画家の観察力を甘く見ないでほしいですね。あんなもの…久しぶりに見ましたよ」
「おや、ご覧になったことがあるんですか?それは素晴らしいですね」
「さすがに味も見ておこうとは思いませんでしたがね…」
「は?」
「いえ、こちらの話です。それであの写真は…」

「富竹さんの秘蔵コレクションからこっそりと」

…圭一、お前…可哀相過ぎるぜ…
露伴はそう思いつつ、そっと部活メンバーに目をやる。
今追いかけているものがとんだパンドラの箱だなどと、本人は思ってもいまい。
まぁいい。この間に仕掛けを仕上げるッ!

ちなみに魅音の記録はその終わり方からして露伴しか時計を注視しておらず、
後に5秒であると聞かされたときには、逆の意味で魅音が崩折れたことをここに記しておく。

816 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 03:40:06.35 ID:Cfo2egVa0
そしていよいよ露伴の出番だ。
「あぅあぅ!ロハン、がんばるのです!」
「(言われなくても僕は本気でいく。黙って見てろ)」
「あ、あぅあぅあぅ!ひどいのです!応援してあげてるのに〜!」
そんなやり取りをスタンドでしながら、露伴はそっと着席する。
目の前には入江。…いや、今の彼には傍らに寄り添うものすら見えそうだ。
気を引き締めてかからねばなるまい。

「さて、露伴さん。あなたにはどこからお話をすれば」
「その必要はない」
そう言い、露伴は先ほどから仕込んだものを放り投げる。
それは入江の膝の上に収まり、そこに描かれたものを表に出した。
「す、スケッチブック…?露伴さんは一体何をしようとしているんですの?」
「そ、それよりも沙都子ちゃん…監督が…ヘンだよ…」

817 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 03:40:41.30 ID:Cfo2egVa0
「あ、あぅあぅあぅ?ロハン、もしかしてあなたは『ヘブンズドアー』を…」
「(こんな遊びにそんなことをするかよ。僕はそういうアンフェアは大ッ嫌いだ)」

だが見てみろ、あの入江の様子をッ!
肩を震わせ、顔を伏せ、何かに打ち震えているようじゃあないかッ!
しかし、部活メンバーにはそれがわからない!だから訊くしかないッ!
「か、監督〜?な、何か言ってもらわないと、その、部活にならないんだけど…」
「魅音ちゃん。君には聴こえないのかい?彼の声が」
「ふぇっ?か、監督、しゃべってるの!?」
魅音は慌てて入江に駆け寄る。それに続いて他のメンバーもッ!
「…か、監督…?」
「…。……!………!」
「え?何?聴こえないよ〜!?」

「…ぃ…」
「ふぇ?」

「…素ぅ晴ぁるぁすぃいぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!!」

818 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 03:41:25.50 ID:Cfo2egVa0
そして入江は周りの部活メンバーには目もくれず、露伴に駆け寄るッ!
そしてがっちりと手を握ったッ!?
「わかっていただけましたか?入江先生」
「はいッ!あなたのメイドに対する愛、この私には十二分に伝わってまいりましたッ!
 素晴らしい!こんなにも素晴らしい同志をはるか彼方から遣わせて頂き…
 この入江京介…不覚にもッ…涙で前が見え゛ま゛ぜん゛…」
そしておいおいと男泣きに咽ぶ入江。
部活メンバーはぽかんとして、その入江のあまりの豹変振りに見入っていた。
「魅…魅ぃちゃん…監督、どうしちゃったんだろ…だろ…」
「さ…さぁ…何か見る限り、『漢の世界!』…って感じで…」
「原因はこのスケッチブックか…?」
圭一が拾い上げたスケッチブックを、部員がどれどれと覗き込む。
そしてそこに描かれたものを見て、全員が絶句した。

826 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 04:02:32.83 ID:Cfo2egVa0
「そう…メイドの理想は美しき白の柔肌、黒き艶やかな髪から始まる…」
露伴が淡々と語り始めると、入江はハッ!っとしたように顔を上げる。
「そしてその髪は日々の業務に差し支えることのないよう、後ろでひとつ、或いはふたつに束ねておくこと」
「そう、その通りなのです露伴さんッ!
 そして服の色は黒か紺!あくまでも『お仕えするもの』としての職分を逸してはならないッ!」
「それに合わせるように清潔感を、白のエプロンで現す。もちろんフリルはその存在の優雅さの象徴」
「スカート丈はロングならくるぶしまで!
 ミニにするなら股下10cm、太ももの白さは決して隠してはならない!」
「ミニの際には基本はニーソ。膝上とスカートの絶対空間は神聖にして犯すべからず」
「その空間を侵してよいのは、スカートの間から覗くガーターベルトのみッ!」
「メガネをするかしないか?そんなものは些細な違いであり、その本質に於いて…」
二人のエンドレスなハーモニーをBGMに、部活メンバーはスケッチブックを呆れながら眺め見る。
そこには、BGMで流されているような理想のメイドの絵が、鉛筆で流麗に描かれている。

悲劇はその直後に起こった。

827 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 04:03:42.87 ID:Cfo2egVa0
「嗚呼!ここまで同じ考えの持ち主と、私は未だに巡り会ったことがない!
 メイドの神様、ありがとう!」
そう叫んだ入江は、露伴に抱きつく。そしてそのまま、熱い接吻を交わそうと…って
「ちょっと待て!僕にその気はない!離れろ!」
「いーえっ!離しません!今夜は絶対に眠らせませんよぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」
「おいっ!誰か止めろ!こいつを止めろぉぉぉぉぉぉっッッ!」
その過剰なまでの入江の求愛行動は、冷静な一言でフリーズした。

「み〜。露伴、1分47秒。すごいのです、ぱちぱちぱち〜」

その一言で、はっと我に返った入江。
露伴はまだそのショックから抜けきれないのだろうか、浮かせた腰をまた椅子に戻す。

少々カッコつかないが、これで露伴は単独首位に躍り出た。

839 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 04:44:34.44 ID:Cfo2egVa0
「…ろ、露伴さん…」
「…何も言わないでくれないか…僕は僕の全力で、この部活を戦ったまでさ…」
気遣いながらも何か近寄りにくそうな沙都子に、露伴は投げやりに言葉を投げた。
「しかし…露伴さんがここまで監督に太刀打ちできるなんてねぇ…
 後はタヌキの梨花ちゃんだけ…くぁ〜、こりゃ今日もおじさん罰ゲームかなぁ」
「そんなことはないのです。勝負は最後までわからないのですよ。なでなで」
そう言いながら、魅音の頭を撫でる梨花ちゃん。
そこには既に勝ったつもりでいる、余裕のオーラが見え隠れする。
「じゃあ、一体どうやってあの状態の監督に立ち向かうのか、拝見させてもらおうじゃないか。
 言っておくが、僕が伊達や酔狂であんな真似をしたんじゃないことくらいはわかるだろう?」
「み〜。露伴のおかげで監督のゲージはすでにリミットをブレイクしていますのです。
 どんな超絶の必殺技が飛び出してきてもおかしくないのです」

840 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 04:45:30.76 ID:Cfo2egVa0
梨花のその言葉に部活メンバーが入江を見やる。
そこには先ほどのテンションよりは落ち着いているものの、
その秘めた温度は先ほどのレベルを遥かに超えたオーラを漂わせる、一人の『漢』が居た。
先ほどのテンションが赤く燃え上がる炎なら…今はまさに青く静かに燃える、いや萌える炎ッ!
「あの監督の様子なら…言葉だけで決着がついてもおかしくねぇっ!」
「さっきからメイド服を出してるあのカバンも…そろそろタネが尽きてる頃だろうしねぇ…
 おじさんもここは超弩級の監督の名言を期待しておこうかねぇ…?」
「だ、大丈夫ですの、梨花…」

「だいじょ〜ぶなのです。ボクにはつよ〜い味方がついていますのですよ」

そしてそのまま髪を掻き直す仕草をし、梨花は決然と椅子に座った。

841 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 04:48:17.57 ID:Cfo2egVa0
「さあ梨花ちゃん、覚悟はいいですか…?
 そもそも古来メイドとは貴方のような愛くるしく清らかな…」
入江の演説が始まった。固唾を呑んで見守る部活メンバーと露伴。
時間を経るごとに入江の論調は激しさを増し、また調子を上げるッ!
「…であるからして…そもそも首輪とは…お仕置きの際には…」
だが梨花の様子がおかしい。
入江の話が聞こえていれば、既に何らかのリアクションを起こしていても何の不思議もないッ!
だが、だがなのだ!梨花の表情にも、その目線にすら、いささかの動揺もないのであるッ!
まるでいつもの愛くるしい表情で、いまにも「みぃ?」と言いそうな!
そんな表情を浮かべるばかりで、時間だけが刻々と過ぎていくッ!

そして、傍聴者がそろそろ精神的に破綻しそうになった開始2分ッ!
涼やかな表情で、梨花はこう言った。

「み〜。ボクのぶっちぎりの優勝なのですよ」

842 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 04:49:04.52 ID:Cfo2egVa0
「ふふふ…なかなかやりますね、古手さん…」
入江が固有結界モードから脱し、梨花のことを『古手さん』と呼んだ。
勝負あり、ということだろう。
「記録二分!勝者!古手梨花!」
部長である魅音が勝ち名乗りを上げると、部活メンバーがわぁっと梨花を取り囲んだ。
だが、露伴はそれに加わることなく、しれっとこう言う。
「よくもまぁ、そんな手を思いついたものだな。正攻法というか、真逆を突いた裏技というか」
それに対し、梨花はいつも通りのねこかぶりでこう返した。

「バレなきゃイカサマじゃないのですよ。にぱ〜☆」

850 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 05:06:05.74 ID:Cfo2egVa0
「え?梨花、いったいどういうことですの?」
その沙都子の表情を見て、梨花はそっと顔を横に向ける。
そしてその髪をそっと持ち上げて、普段は隠れている耳をあらわにした。

「「「あ、あぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っっ!!!」」」

大きな、耳栓。
たったそれだけのことで、梨花はこの難題をスルーしてしまったのだ。
梨花はすぽっとその二つを外し、ようやくすっきりしたのです、と言った。
「そんなぁ…おじさんたちじゃあその方法使えないじゃん…」
「最初の順番決めでもう勝負がついてた…ってことになるな。
 最後だから視覚や触覚に頼らず、聴覚にくる方に梨花ちゃんは賭けたんだ」
「そして勝った、ってことだね。はぅ〜、梨花ちゃんすごいね!すごいね!」
皆が賞賛の言葉を送る中、あら?と沙都子が気がついたようにいう。
「だけど先ほど、露伴さんに対してお返事していたのではありませんこと?あれは聴こえたのでございましょう?」
そんなこと、と梨花は笑いながら言った。

露伴がボクにあんな顔するときは、悪口を言うに決まっているのですよ、と。

855 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 05:33:19.68 ID:Cfo2egVa0
全くこのタヌキ娘は、と露伴がちょっと睨んでやると同時に、入江がこう言った。
「それではそろそろ診療所の方もありますので失礼します。
 メイドの魅力についてはまたたっぷりとお聞かせしますからね〜!」
そしてそのままカバンを持って去ろうとする入江に、露伴は声をかけた。
「入江先生。今日は色々とありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ楽しかったですよ。
 是非今度は診療所のほうにもお越しください。各種注射をご用意しておきますので」
そう冗談めかした口調で言い、入江は去っていった。
部活メンバーが口々に、明日は覚えてろよ監督〜!という中、梨花が笑顔でこう宣言した。
「それでは今日の罰ゲームの時間なのです。今日はボクが法律なのですよ☆」

空気が一瞬にして凍りついたのは言うまでもない。

857 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 05:47:22.73 ID:Cfo2egVa0
「それでは魅ぃ。今日も圭一と一緒に帰るのです」
「え、えぇぇぇぇぇっ!またなのぉ、梨花ちゃぁん…」
「勿論なのです。でも今日は手をつなぐのではダメなのです。腕まで組んで貰うのです」
「そ、そんなこと出来るか〜ッ!ただでさえこの間の、親父やお袋に見られちまったっていうのに…」
「ふぇっ!?あ、あれ、あれ見られてたのおっ!」
「え、あ、し、しまった…」
「何て!?ねぇ、何て言ってたの!?圭ちゃんのお父さんとお母さん!」
「そ、そんなの言えるかぁぁぁぁっ!圭一も隅に置けないな〜とか、今夜はお赤飯ね〜なんて、死んでも言えねぇぇぇッ!」
「き、きゃぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!???」
「思いっきり喋ってるよ、圭一君…」
「レナには、今日も監視役をお願いしたいのですよ。にぱ〜☆」
ちょっと呆れ顔のレナと、さっきよりも顔を赤くした魅音。慌てる圭一。
この光景が例えようもなく微笑ましい。

「そして沙都子と露伴。二人にも罰ゲームで一緒に帰ってもらうのです。もちろん沙都子は露伴と手をつなぐのです」
「「な、なにぃぃぃぃぃぃぃッッッ!!??」」

858 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 05:56:23.42 ID:Cfo2egVa0
「そ、そんなこと、露伴さんが可哀相ですわよ!変な目で見られたらどうしますのーっ!?」
真っ赤になった沙都子が必死で梨花の気を変えさせようとするが、梨花はニコニコするばかりで。
その光景を見ていると、露伴は急にある言葉を思い出してきた。

(沙都子は、嬉しかったのだと思います。)
(暇なときだけでいいのです。)
(沙都子と仲良くしてあげて欲しいのです。)

「(…おい、そこのスタンドまがい)」
「あ、あぅあぅあぅ!まがいものではないのです!」
「(これは別にお前に言われたからじゃない。罰ゲームだからなんだからな)」
「あ、あぅ…?」

「沙都子ちゃん」
「な、何ですの?露伴さん…」

「仕方ないから一緒に帰ろうぜ。このままだとこれ以上ひどい罰ゲームにされかねないぞ」

859 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 06:05:48.96 ID:Cfo2egVa0
「ふぇっ…。ま、まぁ、露伴さんがいい、と仰るなら…」
沙都子もこうなるとおとなしいものだ。
これでよかったのか、と梨花を見やる。満面の笑みが帰ってきた。
「み〜、露伴。100点満点はあげられませんが、90点、なのですよ」
「それだけあればどんな試験も合格さ」
露伴は皮肉に返し、さて、と振り向く。
「さっさと準備しないと、帰るのが果てしなく遅くなっちまうぜ。君らも急ぎなよ」
揉み合っていた魅音たちは、慌てて自分達の荷物をまとめ始める。
段々、顔色が外の空の色に紛れてしまう時間になっていた。
6月の日暮れは、こんなにも遅い。
遠くから、そろそろひぐらしのなく声が聴こえ始めていた。

863 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 06:20:55.36 ID:Cfo2egVa0
「…よ、よし!行くぞ、魅音!」
「ぅ…ぅん…よろしく、圭ちゃん…」
こうして微笑ましい二人と、それを追う怪しい一人が校門を出発する。
そして残された三人も、大きな一組と小さな一つの影を作りながら出発した。

ボクはお買い物にいってきますですよ、お二人でお先に戻ってくださいなのですと、
梨花が途中でいなくなり、手をつないだままの僕と沙都子が残された。
誤魔化して手を離してもいいんですのよ、と言う沙都子に対して、
わざと軽くぎゅっ、と手を握り返して答えてやる。
ふと横を見ると、羽入がとても満足げな笑みを浮かべていた。

なんだかここに来て調子が狂いっぱなしだ。
きっとどうかしているんだろう。そうに違いない。
これもあの、メイドの王様の仕組んだ罠だったのではないか?
もしくはそういう能力を仕掛けられたか。

だとするなら。

864 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 06:25:05.09 ID:Cfo2egVa0
だとするなら。
彼のスタンドは人の「しあわせ」を作り出すスタンドだ。
それはあたかも、天国からの贈り物。

承太郎の様に彼のスタンドに名前をつけるなら、
「メイド イン ヘヴン」
なんていうのが妥当だろう。
天国からの贈り物と、彼に仕える給仕をひっかけて。

下らない想像にくっくと顔を歪めていたら、
今日は変な露伴さんですわねぇ、と沙都子が笑った。

ああ、変だろうとも。何しろ敵のスタンドは、恐ろしい能力の使い手なんだからな。





                     ---- 外伝 Fin ----
867 名前:236 ◆UuZF2thJYM [] 投稿日:2008/01/02(水) 06:35:29.58 ID:Cfo2egVa0
---------TIPS---------
「男の正体」

電話の着信音が所長室に鳴り響いた。

「はい…あぁ、これは小此木さん」
『えろぅ夜分にすんませんね。実は、お昼間に所長と一緒におった男ですが…』
「えぇ。岸辺露伴さんのことでしょうか?」
『多分その男ですんね。やせ気味で、変なもんを頭にくっつけとった奴ですわ』
「露伴さんで間違いありませんね。どうかされましたか?」
『どういう素性の奴なのか、所長はご存知ありませんね?』
「いえ、ただの旅行者の様です。漫画家を志望されているそうですが…」
『そうですか…』
「今度所のほうにもいらっしゃるでしょうから、その時にお伺いしてみましょう」
『了解しました。その方は所長の方に全てお任せ致しますんね』
「あぁ、でも、今でも確実に言えることがありますよ」
『それは一体何ですんね?』

「彼は、『私達の』、味方ですよ」

『…ようくわかりましたんね。それでは失礼させて頂きますん』
「ええ、おやすみなさい、小此木さん」

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