509 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 13:27:53.52 ID:jNEJohw10
露伴は詩音に案内された店に入る。

露伴「へぇ、なかなかいい店じゃあないか。」
詩音「当たり前です。私が興宮で一番気に入ってるお店ですから。」
露伴「いいセンスしてるじゃないか。こんな田舎にいい店があるとは思わなかったよ。」
詩音「あんまり馬鹿にしないでください。私だって故郷を悪く言われるのは好きじゃないです。」
露伴「そういうつもりじゃなかったんだが、ごめんよ。」

露伴と詩音は店の奥にある席に座った。
この席は他の席と若干区切られており、他の客に会話の内容を聞かれることはなさそうだった。


510 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 13:28:52.38 ID:jNEJohw10
詩音「この席がお気に入りなんです。なんか特別席みたいでしょ?」
露伴「あぁ、確かにちょっと特別な感じはするかな。僕もこういうのは嫌いじゃないよ。」
詩音「それで、おねぇと圭ちゃんに何したんですか?
   おねぇから電話はあったんですけど、もうノロケっぱなしであんまり内容が理解できなかったんです。
   ノロケるなら電話してくんなってんです。」
露伴「ははは。魅音ちゃん手を繋いだだけで思考停止してたからなぁ。
   君とは違って、魅音ちゃんは純粋なんだね。」
詩音「露伴さん、それってば失礼です。
   私が汚れてるみたいな言い方じゃないですか。」
露伴「いやいや、君のほうが大人っぽいからなってことだよ。」
詩音「んー、まぁそういうことにしといてあげます。
   それで、おねぇはなんであんなにノロケてたんですか?」

511 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 13:29:53.39 ID:jNEJohw10
露伴「メニュー決めてからでいいかい?
   君も好きなもの注文しなよ。」
詩音「私はもう決まってます。この店のチーズケーキがお気に入りなんです。
   あと、ロイヤルミルクティー。あーでも、おごりならパフェ頼んじゃおっかなー。」
露伴「別に両方頼んでもいいぜ?太っても知らないけどな。」
詩音「むー、失礼な人ですね。でも、お言葉に甘えて両方頼んじゃいます。」
露伴「あぁ、しっかり太ってくれよ。」
詩音「お生憎様、私の場合はしっかりこの胸に行きますんで大丈夫です。」
露伴「ふふふ、おもしろい子だね。君みたいな子は好きだよ。」
詩音「私も露伴さんみたいな嫌味な人、面白いと思いますよ。
   大石のおじさまみたいな嫌らしいのは勘弁ですけど。」

露伴と詩音は皮肉を言い合いながらメニューを注文した。
以外にこの二人、気が合うのかもしれない。
v 513 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 13:31:03.69 ID:jNEJohw10
詩音「それで、おねぇに何したんですか?」
露伴「あぁ、昨日さ。村を案内してもらってたんだけど・・・」

露伴は昨日の出来事を詩音に教えてやる。

詩音「あっははは。じゃあ露伴さんってば気づいてなくてやらせてたんですかー?
露伴「あぁ、別にそんな気はなかったんだが。レナちゃんがそう言ってたからね。」
詩音「おねぇは圭ちゃんにぞっこんです。
   圭ちゃんが引っ越して来てから私への電話の内容は9割が圭ちゃんになりました。」
露伴「ふーん。まぁ、魅音ちゃんらしいと言えばらしいじゃないか。」
詩音「そうなんです。おねぇってば、昼間は男の子みたいにして圭ちゃんと遊んでるくせに、
   夜は私へ電話しては、夢見る女の子みたいにノロケてるんです。なんでも中途半端なんですよ。」
露伴「圭一君は魅音ちゃんのこと男友達だって思ってるみたいだからね。」
詩音「まぁ、話を聞いてる限り圭ちゃんもとてつもなくデリカシーがないですね。
   でも、おねぇに女の子らしくしろって言っても、無理ですからねー。
   フリフリの服でも着て行って、みんなにヒかれるのが落ちってもんです。」
露伴「ははは。そりゃ見てみたいもんだね。」

514 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 13:31:48.02 ID:jNEJohw10
露伴と詩音が雑談を続けるうちに料理も出てきた。
二人は食事をしながら雑談を続けた。

詩音「うーんッ!チーズケーキ最高ぉッ!!」
露伴「そう言ってくれると、おごってる甲斐があるよ。」
詩音「それで、露伴さんは私にスィーツを奢って何を聞こうってんです?
   何か聞きたいことがあるんですよね?」
露伴「いや、本当にお店を紹介してほしかっただけなんだよ。
   あとは魅音ちゃんのおもしろい話でも聞きたいかな、なんてね。」
詩音「へぇー。それじゃあ本当にナンパだったんですねぇ。
   私が気になってること聞いてもいいですか?」
露伴「あぁ、かまわないよ。」

532 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 13:49:57.87 ID:jNEJohw10
詩音「それじゃあ、露伴さん。雛見沢に何しにきてるんですか?」
露伴「あれ?魅音ちゃんから聞いてないのかい?
   僕は漫画家を目指してるんだ。雛見沢には取材できたんだよ。」
詩音「なんの取材ですか?」
露伴「自然とかかな。野鳥とか、植物とか。」
詩音「うーん、嘘つきさんがいますねぇ。」
露伴「僕が何を嘘ついたって言うんだよ。」
詩音「雛見沢に自然とか野鳥を見に来る人なんていません。
   それだったらもっと有名なところに行きますからね。
露伴「うーん、僕以外にも野鳥の撮影の人が来てたよ。
   富竹さんって言ってたけど。写真家らしいぜ?」
詩音「あははは。そっかぁ、露伴さんは知らないんですね。
   富竹さんは野鳥なんかどうでもいいんです。女の人に逢いに来てるんですよ?
   鷹野三四さんっていう、看護婦さん。」
露伴「へぇ、鷹野三四ねぇ。僕はあったことないけど、v    詩音ちゃん、知り合いなのかい?」
詩音「んー、一応診療所に勤めてらっしゃるんで面識はありますけど、
   何か縁があるわけじゃないです。」
露伴「そうかい。あの富竹さんの恋人なら見てみたかったんだがね。」

533 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 13:51:00.37 ID:jNEJohw10
詩音「はいはい。それよりはぐらかさないで答えてくださいね。
   雛見沢に来てる理由、教えてください。露伴さんも女の人かなぁ?」
露伴「ち、違う。僕は、あれだ。
   オヤシロ様の祟りってやつを取材しに来たんだよ。」
詩音「オヤシロ様の・・・祟り・・・。」

先ほどまで楽しそうに話していた詩音の表情が曇った。
本人は悟られまいとしているのだろうが、露伴はそれを察する。

露伴「あぁ、ごめんよ。地元の人はこの話嫌いだよな。
   だから言いたくなかったんだよ。」
詩音「いえ、私は祟りなんて信じてませんので。
   別になんとも思ってないですよ。」
露伴「そうかい。まぁ、祟りの取材は終わったからさ、
   あとは自然を見たり、綿流しのお祭りを取材してから帰ろうと思ってるんだ。」
詩音「オヤシロ様の祟り・・・何かわかったんですか・・・?」
露伴「おいおい、信じてないって言ったくせに興味ありって顔だな。」
詩音「・・・。」

534 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 13:51:40.66 ID:jNEJohw10
詩音が沈黙してから露伴は思い出した。
それは年老いた大石からもらった情報。
4年目の祟りの失踪者、北条悟史と園崎詩音は親密な関係にあったという事を。

露伴「おっと、何か気に障るようなことを言ったみたいだね。
   謝るよ。すまない。」

詩音も露伴の変化を見逃さず、すぐに食いついた。

詩音「知ってるんですね?
   ・・・私と悟史くんのこと・・・。」
露伴「・・・。随分鋭いな。気に入ったよ。
   あぁ、知っているよ。君は4年目の失踪者北条悟史と親密な関係だった。
   叔母が殺された時間帯の北条悟史のアリバイを証言したのも君だ。」



535 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 13:52:55.13 ID:jNEJohw10
詩音「よくご存知なんですね。警察では秘匿捜査指定がかかっているのに、どこで知ったんですか?」
露伴「ふふ、まぁちょっと聞いたのさ。流石に誰から聞いたとは言えないよ。」
詩音「それで、取材が終わったってことは、真相がわかったんですか?」
露伴「一応、僕なりの考えだがね。だから全ての証拠を出せといわれても出せないようなもんさ。」
詩音「それでもいいです。聞かせてください。」
露伴「おいおい、僕と君は1時間くらい前に知り合ったばっかりだぞ?
   それで祟りの真相を話せっていうのは、おかしくないか?」
詩音「教える理由がないということですか?」
露伴「それもあるし、僕が知ってる情報の中に他人に知られて困ることがあるとは考えないのかい?
   たとえば、警察発表の犯人以外に関わっている人物がいるとか。もしそうだったら僕は君に話すことはできないぜ?」

537 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 13:53:38.62 ID:jNEJohw10
詩音「私も自分で調べたんです・・・。
   でも悟史くんの行方は・・・わかりません・・・。
   私は・・・ぅ、ひっく・・犯人なんてどうでもいいんです。
   悟史くんの、ひっく・・行方さえわかれば・・うぅ・・ひっく。」
露伴「お、おい、こんなところで泣くなよ。ご、誤解されるだろう。」
詩音「ご、ごめんなさぃ・・・ひっく・・うぅ・・あぅ・・・っくぅ・。」
露伴「わかったよ。わかった。話すよ。だから泣くのはやめてくれ。
   ほ、ほら、とりあえず店から出ようぜ?な?」

露伴は詩音を引き連れて店から出た。
詩音の嘘泣きには流石の露伴も勝てなかったようだ。

654 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:03:45.67 ID:jNEJohw10
ふたりの姿は詩音の私室。園崎組の管理するアパートの一室にあった。
露伴が人に話を聞かれることを嫌ったためだ。

詩音「そんなことはないと思いますけど、一応言っておきます。
   隣の部屋には私の忠臣の葛西っていう怖い人がいるんで、変なことはしないでくださいね。」
露伴「おいおい、僕がそんなことをするように見えるのかい?」
詩音「んー、一応です。
   たしかに露伴さんは漫画家ってイメージじゃないですよね。
   変わったヘアバンドしてるけど、服装もお洒落だし。」
露伴「世間の持ってる漫画家のイメージっていうのは、間違ってるんだよ。
   漫画家ってのは全員オタクでネクラな連中だと思ってやがる。」

655 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:04:55.57 ID:jNEJohw10
詩音「申し訳ないですが、私もおねぇから最初に聞いたときは、そういう漫画家をイメージしちゃいました。」
露伴「まぁ、いいや。で、本題に入るけど。
   場の流れで話すとは言ったが、僕の知ってることを全て話すことはできない。
   多分、信じてもらえない話もあるしな。」
詩音「私は、悟史くんのことだけ知れればいいんです。」
露伴「そう言われてもな。うまく説明するためには僕が言えないことも喋る必要がでてくる。
   そればっかりは泣かれても教えられない。」
詩音「むー、いじわるですねぇ。」

そう言って詩音は考え込んでいるようだ。
露伴もどこを話したらいいものかと悩んでいた。

656 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:05:58.42 ID:jNEJohw10
詩音「あ、そうです。こんなのどうですか?」
露伴「うん?」
詩音「私が考えている、祟りの真相を喋ります。
   露伴さんは、教えられるところだけ、間違いを指摘する。
   根拠とかは、言えないなら言わなくていいですから。
   私たちは祟りの真相を調べる仲間ってわけです。
   あ、もちろん、悟史くんのことは詳しく言ってくださいね。」
露伴「ふーん。仲間にされるのはどうかと思うが、
   まぁ、そんな感じでよければ話すよ。まずは君の話を聞かせてくれよ。
   途中で間違いを指摘すると次に繋がらなくなるかもしれないからな。
   最後まで黙ってる。」
詩音「わかりました。それじゃあ、私の考えているオヤシロ様の祟りの真相を言いますね。」

658 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:08:08.14 ID:jNEJohw10
詩音は淡々と1年目の祟りから3年目の祟りまでを話した。
彼女の考えは基本的に園崎家が黒幕という考えだった。
彼女が言うには、全ては園崎家が村の敵を殺すために行ってきた。
綿流しの日に人が殺されても祟りで済んでしまうというシステムを作り上げた。
そういう話だった。

詩音「そして、4年目の話です。ただ、4年目の話は・・・ちょっと私も整理ができていません。
   おねぇに問い正したこともあるんですが、おねぇは園崎家は関与していないと言っていました。
   私はそれが信じられる答えだとも思っています。
   でも一方で、これまで話したように、園崎家の陰謀ではないかとも思っているんです。
   ですから、4年目については私がしる出来事を順にお話します。そしてそれに対する考えを述べます。
   矛盾があるかもしれませんが。そこは整理ができてない部分だと思ってください。」
露伴「わかった。まぁ、聞いてみないとなんとも言えない。」
詩音「それでは・・・」

詩音は悟史との思い出を話し始めた。

659 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:10:10.37 ID:jNEJohw10
私が悟史くんと出会ったとき、私は自由の身じゃなかった。
と言っても、捕まってるわけじゃない。
捕らわれの身だった時期もあるけど、なんとかそこから抜け出してきた。
抜け出したあとは鬼婆に見つからないようにしないといけなかった。
本当は違う町にでも逃げ込めばいいんだろうけど、私は故郷に帰りたくて興宮に戻ってきた。

興宮での生活は逃亡犯みたいなもん。
私の味方をしてくれるのは葛西と一握りの親類だけ。
それ以外の人間に"園崎詩音"が見つかれば、すぐ鬼婆のところに引っ立てられる。
もしそうなったら、指の1本や2本はなくなるかもしれないなー、なんて思ってたっけ。

660 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:10:59.66 ID:jNEJohw10
幸い、魅音は私の味方をしてくれた。
私たちは双子だ。何もかも一緒なのだ。
私は生活費を稼ぐためにバイトをしている間、"園崎魅音"になる。
その間、本物の魅音は人目につかないところで隠れていてくれる。

そう、悟史くんとの出会いはそんな入れ替わりの最中だった。
私は"園崎魅音"として悟史くんに出会ったのだ。
私はすぐ彼に惹かれた。悟史くんのどこが好きだったのかな?
優しいところが好きだった。頭をなでてくれるのがうれしかった。
頼りない彼にいつもついていてあげたかった。何気に野球ができたりするところも?
言い出したらキリがない。私は悟史くんが大好きだった。

662 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:11:43.96 ID:jNEJohw10
魅音は私に色々な意味で気を使ってくれた。
私に悟史くんのことを色々教えてくれた。
私がなるべく悟史くんと会えるように入れ替わってくれた。
ううん、そんなことは大したことじゃない。
一番魅音が気を使ってくれたのは、悟史くんを譲ってくれたこと。

そう、考えれば簡単なことだった。私は知っていた。
私たち双子は好みも同じだ。昔からそう。同じものを好きになる。
同じ食べ物を好きになる。同じものを美味しいと思う。同じ人を好きになる。
そのときの私は悟史くんに夢中でそんなこと気づいていなかったんだと思う。

663 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:12:48.95 ID:jNEJohw10
魅音は私に応援すると言ってくれた。
しばらく幸せな日々が続いた。入れ替わっている以上、恋人とかそんなものにはなれない。
だけど、私は悟史くんと会う時間があるということだけで幸せだった。

しかし、その幸せな日々も長くは続かない。
悟史くんが野球の練習に来なくなり始める。
理由は、叔母の沙都子への風当たりが厳しくなったこと。
沙都子の誕生日プレゼントを買うためにバイトをしていて忙しいこと。
いろいろ聞いたけど、私は悟史くん本人には会うことができなかった。
話を聞く限り、悟史くんは大分追い詰められているようだった。
沙都子が叔母の喧嘩を買う。悟史くんは沙都子をかばう。
叔母も大人気ない人らしい。悟史くんは毎日磨り減っていった。

そういればそのとき竜宮レナが変なことを言ってたかもしれない。
悟史くんにオヤシロ様が怒っているとか。よくわかんない。

664 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:13:51.37 ID:jNEJohw10
悟史くんに再会するために、雛見沢の学校へ行った。もちろん、"園崎魅音"として。
悟史くんは変わり果てていた。私、ううん、"園崎魅音"に敵意をあらわにしていた。
悟史くんに拒絶された私は、沙都子を殴り倒した。すると悟史くんは沙都子をかばった。
悪いのは沙都子なのに。沙都子が叔母の喧嘩を買うから、悟史くんが巻き添えを食うのに。
沙都子なんていなくなればいいのに。

その後、魅音は怒ってたな。まぁ、当然といえば当然か。
入れ替わって自分の名前で喧嘩されれば困るのは当然だ。
それから、綿流しの準備が始まる。魅音が忙しい時期なった。
そんな時期に魅音が、一騒動起こした私と入れ替わってくれるはずもない。
私は悟史くんと仲直りできずに日々を過ごした。

665 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:14:32.60 ID:jNEJohw10
綿流しの前日。電話がくる。
魅音からの電話だった。でも、正確には悟史くんからの。
悟史くんから魅音に電話がかかってきた、先日の学校での件を謝りたいと。
魅音は気を利かせ、私が掛けなおすようにしてくれた。
悟史くんは、私を許してくれた。園崎家のことは憎んでいたけれど、私を許してくれた。
そして祭りの日に沙都子を頼むと言われた。自分は祭りに行けないから。
だから沙都子を祭りに連れてってくれと頼まれた。

祭りの日、叔母が殺された。

666 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:16:23.90 ID:jNEJohw10
私は悟史くんが殺したのだと気づいた。
警察が悟史くんに行き着くまでにそう時間はかからなかった。
悟史くんにはアリバイがなかった。叔母の死亡時刻の。
どうしようもなかった。すでに村での聞き込みも終わり、今からアリバイ工作をしても無駄だった。
私は、私に残されたたった1枚のジョーカーを切った。"園崎詩音"という名のジョーカーを切った。
祭りの時間に北条悟史は"園崎詩音"と一緒に興宮にいた。そういうことにした。

ジョーカーは最高の切り札だ。
警察は私というジョーカーに邪魔され、悟史くんを逮捕することはなかった。
しかし、ジョーカーは最も悪いカードでもある。
私は最高の切り札を使うと共に、ババを引いたのだ。
警察という公の場に"園崎詩音"が出た以上、園崎家は黙っていられない。
私はすぐに引っ立てられ、鬼"ババ"の前に突き出された。

667 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:17:14.28 ID:jNEJohw10
最初は学園から抜け出したことを咎められると思っていた。
だが、鬼婆は私と悟史くんのことをあれこれと騒ぎ立てていた。

私は間違ったことをしていないと胸を張って言った。
北条悟史くんが大好きだと言った。人が人を好きになって何が悪い。
私は"北条"悟史くんが好きだ。だから何だって言うんだ。
悟史くんが北条家の人間だから、私が園崎家の人間だから、だから何が悪いって言うんだ。
悟史くんが好きだ。悟史くんが好きだ。好きだ。好きだ。大好きだ。

668 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:18:35.82 ID:jNEJohw10
私は今でも間違ったことをしていたとは思っていない。
でも、園崎家に逆らうことはできなかった。
葛西が、次郎伯父さんが、悟史くんがどうなってもいいのかと、そう魅音に告げられた。
私は自らの体でケジメを付ける。爪3枚。それは体験したことのない者にはわからない痛みだった。
死ぬほどなんてそんなものじゃなかった。どう形容しようもない。

考えてみて。さぁ、いま自分の手を見つめて。あなたの手は固定されている。
爪の先を薄い金属で、薄いけどギザギザがついていて滑らないようになっている金属で挟み込む。
その金属を、思いっきり、そう、あなたが出せる最大の力で容赦なく引き上げて。v ゆっくりじゃない、思い切り、ものすごいスピードで。指が一緒にとれるんじゃないかって思うくらい思いっきり引き上げてみて?
わからないでしょ?すごい痛いんだよ?私が死ぬまでにあんな痛みはもう体験できないかもしれない。
本当に痛いんだよ。でも、私はやった。爪3枚・・・私の爪はちゃんと3枚なくなった。

669 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:20:08.59 ID:jNEJohw10
それから数日、私は部屋に篭りっきりだった。
一応興宮で暮らすことは許されたらしい。
だけれども、なにもする気になれず家に篭っていた。
ふと思い出したことがあった。悟史くんが買うと言っていたぬいぐるみ。
沙都子の誕生日プレゼントに買うと言っていたぬいぐるみがどうなったか気になっておもちゃ屋に行った。
ぬいぐるみは無くなっていた。悟史くんが買ったんだと思った。

大石に呼び出される。大石はやっぱり嫌いだ。
最悪のニュースを持ってきた。

悟史くんが失踪した。

私は、
「悟史くんはぬいぐるみを買った。
 大きいぬいぐるみだからそのまま家に帰るはずだ。
 失踪したとか名古屋で見かけたなんて、何かの間違いだ。」
と言い張った。

670 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:21:14.87 ID:jNEJohw10
そしたらね、大石が意地悪く言うんだよ。
悟史くんが買ったか、裏がとれないって。
店番のおじいさんが年寄り過ぎて、悟史くんだか覚えてないって。
大石はもっと嫌なことも言うの。
悟史くんは園崎家に消されたんじゃないかって。
北条家だからどうのこうのじゃない。
園崎家の私と殺人犯が一緒にいるのが気に入らなかったんだって。
だから悟史くんをどうにかしちゃったんだって言うんだよ。

そうなのかな・・・大石の言う通りなのかな。
私、爪3枚・・・はいだよ?すごい痛い思いしたよ?
だから、悟史くんは許してもらえるんじゃないの?
だから、大石の言うことなんて嘘じゃないの?

でも、でも、大石の言うことが本当かもしれない。 だって、悟史くんがいなくなる理由がない。
悟史くんは家出なんかする人じゃない、私の知ってる悟史くんはそんな人じゃない。
じゃあ・・・、じゃあ私が悪いの?私が悟史くんを好きになったから。
私が好きだったから、悟史くんはいなくなっちゃったの?私のせいなの?
私が悪かったの・・・?悟史くん・・・。

671 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:22:10.55 ID:jNEJohw10
後日、魅音と話す機会があった。
最初は普通に話してたんだけど、途中でついね。
熱くなっちゃって魅音の首を絞めてた。
ううん、本気で殺そうとしてた。

それでね、あの子の手を見たの。そしたらね、ないんだよ?
私と同じ場所の爪がないの。爪が3枚。
魅音は言った。詩音だけが爪をはぐのは可哀相だって。
それから悟史くんのことも本当に知らないって。泣きながら言ってた。
殺そうとした私に怒らなかった。

私は誰を信じたらいいのかな。
魅音を信じたい。魅音の言うとおりであってほしい。

だけど、どうしても園崎家のことが信じられない。
魅音のことが信じられない。私は何を信じたらいいんだろう。
悟史くんに会いたい・・・。

672 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:22:58.41 ID:jNEJohw10
詩音は露伴に話しているのも忘れ、一人思い出を楽しんでいた。
もちろん喋ってはいるのだが、おそらく自分でも何を言ったか覚えていないだろう。

詩音は笑ったり、楽しそうにしたり、悲しそうにしたり、
怒ったり、泣いたり、本当に様々な表情を見せながら露伴に話した。
露伴にも、彼女の感情がそのまま伝わったようだった。
いつもの冷めた露伴ではなく、そこには少女の考えを必死に受け止める露伴がいた。

673 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:24:12.71 ID:jNEJohw10
詩音「・・・。
   そんな・・・ところですかね?
   みっともないところをお見せしてすみません。」
露伴「いや、まぁ、確かに余計な話もあったが、君がどうして真相を知りたいのかはわかったよ。」
詩音「そうですか。それじゃあ、教えてくれると嬉しいんですけど、
   やっぱりだめですか?」
露伴「まぁ、最初に言ったとおり、全部教えることはできない。
   証拠を出せといわれても、出せないものも多い。」
詩音「・・・。」

露伴は自分の知る真実を全て詩音に打ち明けたいと思った。
この少女の苦悩を1日でも早く取り去ってやりたいと思った。
露伴は最初、どうせ中学生の恋に恋する話でも聞かされるのかと思っていた。
しかし、彼女のそれは違っていた。純粋に人を好きになった。ただそれだけの話だった。
だからこそ、露伴は彼女に真実を告げてやりたいと思った。

674 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:25:25.04 ID:jNEJohw10
しかし、それができないことは露伴自身が最もよく知っている。
彼女に真実を教えれば彼女は行動を起こし、露伴の計画は全て無駄になる。
それどころか、彼女は山狗にさらわれ、自分も山狗に狙われるようになるだろう。
もしかしたら、別の組織がいればそっちにも狙われるかもしれない。
自分がスタンド使い以外にやられるとは思わないが、大災害の真相を知ることはできなくなる。
また、この少女を危険にさらしたくないと思った。

露伴「まだ、君にどこまで話せるのか判断できない。」
詩音「むぅ・・・ずるい人ですね。」

そのとき、インターホンが鳴った。

詩音「あっちゃー、もうこんな時間かぁ。
   今日はうちの親父にお説教の呼び出しされてるんですよねぇ。」

そう言うと詩音は玄関まで出て行き、訪ねてきた男に何かを告げた。
そして戻ってくる。

675 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:26:17.78 ID:jNEJohw10
詩音「露伴さん、もう今日は時間がないですね。
   お話、今度聞かせてくれますよね?」
露伴「・・・。今度会うときまでに君にどう話したらいいのか考えておくよ。」
詩音「わかりました。じゃあ、私、用意するんで、帰ってもらってもいいですか?」
露伴「あぁ・・・。」

露伴は玄関まで行き、立ち止まった。

詩音「ほらー、さっさと出ちゃってください。
   着替え覗くおつもりですかぁ?」
露伴「北条悟史は、生きている。」

676 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:26:52.94 ID:jNEJohw10
詩音「ッ!!
   え・・・?い、いきなり何を・・・。」
露伴「北条悟史は、生きている。
   そして園崎家は何も関与していない。
   君の姉を信じてやれよ。
   今の僕が言えるのは、これだけだ・・・。」
詩音「ちょ、ちょっと!待ってください!!」

詩音の制止も聞かず、露伴は部屋を出た。
部屋を出るとヒゲ面の男が立っていたが、露伴は気にせずに通り過ぎた。

詩音「悟史くんが・・・生きてる・・・。」

677 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:27:45.85 ID:jNEJohw10
露伴は雛見沢に帰るべく自転車をこいでいた。

露伴は思う。自分は雛見沢に来てからどうもおかしくなっている。
今まではあんなにも他人には無関心だったのに、なぜこんなに人の為に何かしたいと思うのだろう。
露伴は雛見沢の子供たちに対して自分が持っている感情を認めたくなかった。

他人に感情移入しすぎてる。こんな調子じゃあいい漫画は書けないぞ。
露伴はそう自分に文句を言い、頭を掻いていた。
すると突如、露伴の名前を呼ぶ声が聞こえた。

??「露伴さーんッ!!おぉーーーい!!」

678 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:29:03.79 ID:jNEJohw10
声の主は圭一だった。車の助手席から体を乗り出して手を振っている。
恥ずかしいやつだ。露伴はそう思いながら車に近づいた。

露伴「やぁ、どうしたんだい?圭一君。」
圭一「今親父と飯食いにいくところだったんすよー。
   露伴さんも一緒にどうですか?」
露伴「いやいや、お父さんと一緒なら僕が一緒するわけにはいかないだろう。」
圭一「いやー、うちの親父画家なんですよ。
   昨日家に帰ってから、露伴さんの話をしたら会いたいって言い出しちゃって。
   だから偶然見かけて止まってもらったんす。」
露伴「へぇ・・・画家をやってらっしゃるのか。
   それはご一緒したいところだが・・・。」
圭一「親父はぜひ一緒にってさ。
   親父ぃ、露伴さんも来てくれるってさ。
   露伴さん、後ろ乗っちゃってよ。」
露伴「いや、自転車があるんだよな。車に積めそうもないし。」
圭一「それじゃあ露伴さん、駅まで俺が迎えに行くよ。
   駅前にある店にいくらしいんだ。」
露伴「あぁ、わかったよ。」

圭一が窓から引っ込むと自動車は駅のほうへと進んでいった。
露伴も画家と食事ができるなら、願ってもないことだと思い、駅へと急ぐのだった。
680 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/01(火) 23:30:05.92 ID:jNEJohw10

■TIPS

----露伴のメモ----
魅音と詩音に発症可能性について

園崎魅音と園崎詩音、両方に接触を終えて考える
もちろん、彼女らの性格的な違いもあるだろうが、
僕は園崎詩音が発症する可能性が高いと感じた

羽入に話を聞いてみると、羽入も経験上同じものを感じているそうだ
彼女らの転生で園崎姉妹のどちらかが発症した場合
発症したのが魅音だと断定できるケースはほぼないそうだ
しかし、発症したのが詩音だと断定できるケースは多々あるらしい

これらから、園崎詩音は発症する可能性を考慮し、対処する必要がある
また、逆に園崎魅音はあまり発症に関しては気にしなくて大丈夫だろう
園崎魅音が発症するよりは、竜宮礼奈や前原圭一が発症する可能性のほうが高そうだ

CHAPTER17へ
TOPへ