4 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 16:26:35.99 ID:aOEIPPP10
  1983年(昭和58年)
       6月21日(火)

沙都子は学校へと向かった。
梨花は体調が優れないと言い学校を休むそうだ。
露伴も家に居座ろうとしたが、病人の近くにいるなと追い出された。
そのため、露伴は今日も神社の境内で一人考え事をする。

入江から得られた鷹野の情報に梨花を殺害する動機となる確定的なものはなかった。
もちろん、露伴の知らない情報も多々得られはしたのだが・・・。

鷹野が雛見沢症候群の発見者の養孫であること。
鷹野が雛見沢症候群の研究に多大な熱意を持っていたこと。
そして近年、雛見沢症候群の研究の規模縮小が決定し、
症候群の撲滅の後にその存在は隠蔽されること。

入江から得られたこれらの点を結びつけると、
鷹野が研究縮小にヒステリックを起こし梨花殺害を計画した。
梨花を殺すだけの動機なら、その程度の動機も十分ありえるだろうか。

5 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 16:27:39.02 ID:aOEIPPP10
だが入江から得られた中でもっとも重要な情報がそれを否定している。

緊急マニュアル第34号
これこそが雛見沢大災害の真相であり、
ある意味露伴が最も知りたかった事実でもある。
あとは梨花を殺害する犯人が誰なのかを知ることができれば露伴の当初の目的は達成されるのだ。
そう考えると、当初の目的の半分は達成したと考えることができるだろう。

鷹野はこのマニュアルの存在を知っていた。
すると、鷹野にとって梨花の殺害は雛見沢住人2000人の殺害と同義であることになる。
2000人の殺害の動機が、熱意を持っていた研究の縮小に対するヒステリック。
もちろん、可能性が0%というわけではないが動機としては不十分に感じる。
そして、梨花の殺害は2000人の殺害と同義だが、鷹野にとってはもう一つの意味を持つ。
梨花と住人2000人の殺害、それは雛見沢症候群の研究の終焉を意味する。
研究対象がいなくなれば研究が続けられないのは当然のことだろう。
症候群の研究に熱意を持つ鷹野が自らの意思で梨花の殺害を計画したとは少し考えずらい。

6 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 16:32:38.05 ID:aOEIPPP10
鷹野には住人2000人が死亡しても利益はない。
山狗にも住人が死ぬことによって利益がもたらされるとはあまり考えられないな。
入江の記憶から"東京"という組織の存在は確認できたが、それは山狗や鷹野の上の組織だ。
東京も含めた、鷹野達に梨花と住人2000人を殺して利益があるとは思えない。
なんらかの政治的効果はあるだろうが、2000人を虐殺することのリスクを上回るものがあるとは思えないからだ。
ではやはりそれとは別の組織の存在があるのだろうか。

いや待て、そもそも鷹野は梨花を殺す側の人間なのか?
たしかに鷹野の死体は偽装死体の可能性が高い。
僕の直感も、鷹野はあの日に自分が"死ぬ"のを知っていたと言っている。
だが、鷹野が梨花を殺す側の人間ではない可能性もあるのか・・・。
鷹野が梨花の死に関わっている可能性は高いが、どちら側の人間なのか・・・。
鷹野に接触することが現時点で最も重要なのは変わらないが、犯人からは遠ざかったような気もしてくる。
最悪、梨花を殺しに来た犯人を直接見つけることになるかもしれない・・・。

「ロハン、聞こえないのですか?ロハーンッ!?」

露伴がその声に気づき、目を開けると羽入が駆け寄ってくるところだった。

7 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 16:33:59.49 ID:aOEIPPP10
羽入「やっと気づきやがったのです。ロハンは耳が悪いのです。」
露伴「うるさいな、考え事をしてたんだよ。
   で、何の用だよ?僕に付きまとうのはやめたんじゃなかったのか?」
羽入「僕だっていつも梨花についているわけじゃないのです。
   たまにはお散歩をしたりもするのですよ。」
露伴「だったら僕に話しかけるなよ。考え事の邪魔だね。」
羽入「あぅあぅ。もちろん、用もあるのですよ。
   やっぱり露伴はボクに冷たいのです。」
露伴「ふん、やっとうるさいやつから解放されて清々しく過ごしてたんだ。
   あんまり騒がないでくれよな。で、何の用だよ?」
羽入「ロハンは昨日、能力を使いましたですね?」
露伴「富竹の時といい、おまえに勘付かれるのは気に触るな。」
羽入「あぅあぅ、ボクだって好きで感じてるわけじゃないのです。
   それで、何があったのですか?」
露伴「入江に能力を使っただけさ。先に言っておくが犯人はわからなかったぞ。
   まぁ、入江が犯人じゃあないってわかったくらいさ。」

8 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 16:35:24.17 ID:aOEIPPP10
羽入「入江が梨花を殺すはずはないのです。」
露伴「そう思い続けてもう何十年と生きてるんだろ?
   何事も疑ってかからないと、あと百年以上はこのままだろうな。」
羽入「あぅあぅ、でもやっぱり入江は犯人じゃなかったのですよね?」
露伴「そういう意味じゃないんだがな。
   そんなことよりだ、僕はあとどれくらい能力を使える?」
羽入「はっきりとはわからないのですが、まだまだ大丈夫だと思います。」
露伴「富竹のときから時間が経ったが、それで影響が薄れたりは?」
羽入「富竹のときからずっと変わっていないのです。
   そして昨日のでボクの能力の歪みが2倍くらいになりましたです。
   だからあまり時間は関係ないと思いますです。」
露伴「・・・今の歪みの何倍まで大丈夫そうなんだ?」
羽入「だから、はっきりとはわからないのですよ。」
露伴「大体でいいんだよ。目安くらいは必要だろう。」
羽入「そうですね、ボクが保障できるのはあと3倍くらいまでとしか・・・。」
露伴「安全なのはあと4回。それ以上はいつ元の世界に戻されるかわからないってことか。」
羽入「ボクの感覚的なものなので、どのくらいあてになるかはわからないのですよ。」

9 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 16:36:13.84 ID:aOEIPPP10
露伴「それでも知らないよりはましだろう。
   よし、用は終わっただろ?まだ用があるのか?」
羽入「あぅあぅ。用がないと一緒にいてはいけないのですか?」
露伴「・・・勝手にしろ。」
羽入「それじゃあシュークリームを買いに行くのはどうですか?」
露伴「なんで僕がシュークリームを買わないといけないんだよ。」
羽入「病気の梨花にお見舞いなのです。さ、自転車に乗るのです。」
露伴「おまえが食べたいだけだろう・・・。
   僕は人を待ってるんだ。だからここからは動かないぞ。」
羽入「誰と約束しているのですか?」
露伴「いや、約束はしてないが・・・。
   ほら、予想通り来たぞ。ふふふ。」

露伴がそう言うので羽入は階段のほうを振り返った。
階段を登り終えた大柄な男がこちらへと歩いてくる。
大石だった。

10 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 16:37:30.73 ID:aOEIPPP10
大石は露伴のすぐ近くまで歩いてくるとわざとらしく話しかける。

大石「おんやぁ?珍しくオヤシロ様にお祈りをしようと思ったんですがね。
   こんなところで何してるんです?漫画家の先生。」
露伴「アンタを待ってたんだよ。僕に会いに来たんだろ?大石さん。」

露伴がそう言うと、大石はなぜか嬉しそうに嫌らしい笑いを見せた。

大石「んっふっふっふっ。お祈りに来たのは本当ですよぅ?」

大石はそう言うと、露伴の横を通り過ぎ賽銭箱へ小銭を投げ入れた。
そして手も合わせずに露伴のところへと戻ってくる。

大石「えぇーと、岸辺さんでしたっけ?
   私の名前どこで知ったんです?挨拶するのは初めてだと思うんですが。」
露伴「祭りの実行委員会の場にいたじゃあないか。名前は村人から聞いたよ。
   間違ってたなら謝るけど、記憶力はいいほうだぜ、僕は。」
大石「そうですかそうですか、それで私に何か用があるんですか?
   待っていてくださったんですよねぇ?」
露伴「待ってたとは言ったが、僕が用があるとは言ってないぜ。」

11 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 16:38:28.68 ID:aOEIPPP10
大石「すると、どういうことです?んっふっふ。」
露伴「アンタが僕に用があるだろうから待っててやったってことさ。」
大石「おやおや、岸辺さん、警察に厄介になるようなことしたんですか?
   それはいけませんねぇ。今なら自首ってことにしときますよ?」
露伴「いいや、何もしてないさ。」
大石「本当ですかぁ?何かやましいこと、あるんじゃないです?」
露伴「じゃあ、アンタは僕に何も用がないんだな?
   それなら、僕はもう行くけど?」

露伴は立ち上がり、神社を去ろうとする素振りを見せる。
大石は露伴にやりずらさを感じたのか、少し不機嫌そうな顔を見せた。
そしてまたわざとらしい演技をしながら言う。

大石「あぁ、そういえばですね。
   別にここに来た理由ってわけじゃないんですがお聞きしたいことがあったんですよ。」
露伴「フン、なんだよ。」
大石「えぇっと、綿流しのお祭りの晩のことです。
   岸辺さん、どうしてましたかぁ?」
露伴「質問を質問で返すようで悪いが、どうしてそんなことを聞くんだい?」
大石「・・・。」

12 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 16:40:32.71 ID:aOEIPPP10
この質問に答えることは大石にとっては少し好ましくない。
綿流しの晩に富竹と鷹野が死んだことは公表されていない。
もし、露伴の口から5年目のオヤシロ様の祟りを連想させる言葉が出ようものなら、
そこに食いついてやろうと思っていたからだ。

しかしその作戦は上手く行きそうにない。
この岸辺露伴という男は、自分の狙いを理解した上でこの質問をしてきたのだ。
熟年刑事の勘でそれを感じ取った大石は少し考え込んだ。
そして覚悟を決める。

大石「そういえばですねぇ、私、このあとお昼に行こうと思ってたんです。
   よかったらご一緒にいかがです?」
露伴「それが僕に質問した理由かい?」
大石「いえいえ、それはお昼を食べたらお話しますよ。
   今話すと、もしかしたらお昼が美味しくなくなっちゃうかもしれませんからねぇ。」
露伴「やっぱり僕に用があって来たんじゃないか。」
大石「質問とお昼は別ですよぉ?オヤシロ様のお祈りに来たら、漫画家の先生とばったりお会いした。
   お祭りでは大活躍だったみたいですからねぇ。雛見沢じゃ知らない人はいないくらいの有名人です。
   せっかくだからお昼をご一緒にって変です?」
露伴「まぁ、どっちでもいいさ。つき合わせてもらうよ。
   車で来てるんだろう?」
大石「えぇ、下に泊めてあります。興宮にいいお店があるんですよ。」

13 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 16:41:04.93 ID:aOEIPPP10
露伴はスタンドで羽入に話しかける。

露伴「そういうわけだが、おまえはどうするんだ?」
羽入「梨花が飲み過ぎると困るので、僕はここに残るのです。」
露伴「仮病か・・・。」
羽入「梨花は自分の死が近づくと、昼間からお酒を飲んだり、あぅッ!!
   あぅあぅ・・・痛いのです・・・なんで僕を殴るのですか。」
露伴「自分で考えろ。じゃあな、行ってくる。」

露伴は大石に案内され、階段を下りていく。
残された羽入はしばらく自分の殴られた理由を考えていた。
だが結局理由は思いつかず、梨花の下へと戻ることにした。

38 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 18:57:57.27 ID:aOEIPPP10
露伴と大石は車の中では世間話をする。
といっても、露伴にとってこの世界の世間話はしづらい。
大石の話になんとかあわせているだけだった。

やがて車がファミレスのような建物の1階部分にある駐車場へと入っていく。
露伴はこの店に見覚えがあった。

露伴「いいお店って、ここのことだったのか?」
大石「ありゃ、岸辺さん知ってましたか?」
露伴「一度、来たことがあるが・・・。」
大石「このお店のウェイトレスさんの格好、可愛らしいでしょう?
   署でも大人気なんですよ、このお店。それとも、こういうお店はお嫌いですか?」
露伴「・・・別に料理は普通だった気がするし僕はかまわない。」
大石「料理よりウェイトレスさんが大人気なんですけどねぇ。
   んっふっふっふ。それじゃあ参りましょうか。」

39 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 18:59:14.40 ID:aOEIPPP10
昼食を食べ終えた二人のところに、ウェイトレスがコーヒーのお替りを持ってくる。
二人の席は壁際で、隣の客もいなかった。ウェイトレスがお辞儀をして去るのを確認したあと大石が切り出した。

大石「それじゃあお昼も食べたことですし、本題に入ってもいいですかねぇ?」
露伴「あぁ、僕の質問に答えてくれるんならね。」
大石「岸辺さん、オヤシロ様の祟りって知ってますか?」
露伴「一応知っているつもりだよ。雛見沢に来たのはそれの取材もかねてるからね。」
大石「そいつぁ結構です。
   それじゃあ、綿流しのお祭りの晩に二人お亡くなりになった、
   と言えばわかってもらえますかな。」
露伴「今年もオヤシロ様の祟りが起きたってことになるわけだ。」
大石「そうです、ですから岸辺さんが何か知っていらっしゃらないか、
   不審な人物を見かけなかったか、などお話を聞きたかったわけですよ。
   ただ、事件があったことは秘匿捜査ということで伏せていますので、さっきのような聞き方になったわけです。」
露伴「僕を疑ってるってはっきり言ってくれてかまわないよ。ふふふ。」
大石「いえいえ、岸辺さんを疑ってるわけじゃないんですよ。
   なにか情報をお持ちでないかお聞きしたいんです。
   ただ、岸辺さんが当然だと思っている情報でも警察にとっては有益な情報かもしれません。
   岸辺さんがその夜に見聞きしたことをできるだけお教えくださると助かります。」

40 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 19:01:04.58 ID:aOEIPPP10
露伴「僕は疑ってないけど、僕のアリバイを聞かせろってかい?」
大石「疑ってはいないんですがねぇ。困りましたな。」
露伴「いや、話すよ。アリバイはちゃんとあるわけだしね。」
大石「そうですか。アリバイがあるんでしたら、それが一番ですよ。
   疑ってはいないんですが、身の潔白を証明するつもりでお話をお願いします。んっふっふっふ。」

露伴は出し物のあとから園崎家での宴会までの行動を話した。
露伴が予想以上に詳細な話をしたため、大石は途中からメモを取っていた。

露伴「・・・が園崎家に泊まった人間かな。他は帰っていったと思う。
   それが、1時過ぎだった。そのあとは寝て、魅音ちゃんに起こされるまでは寝ていた。」
大石「なるほどなるほど。うーん、たしかに岸辺さんには犯行は不可能ですなぁ。」
露伴「だから言っただろう。それに二人って誰が死んだかも知らないんだぜ。
   僕の身近な人間が死んだなら、もうわかってるとおもうが・・・。」
大石「お亡くなりになったのは、富竹さんと鷹野さんです。
   お二人のことは知っていますかな?」
露伴「あ、あぁ・・・知っている。
   富竹はてっきり雛見沢から帰ったんだと思っていたが・・・。」
大石「・・・。そのご様子だと本当に知らなかったんですかねぇ?」
露伴「あぁ、二人とも普段から会うわけじゃないんでね。」
大石「そうですかぁ、それはちょっと妙なことになりましたねぇ。」
露伴「妙なこと?僕が死んだのを知らないことがかい?ふふふ。」
大石「んっふっふっふ。
   あ、ウェイトレスさーん、もう1杯お替りもらえますー?
   岸辺さんもお替りもらいますか?」
露伴「あぁ。もらうよ。」

97 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 22:46:27.05 ID:aOEIPPP10
再びコーヒーのお替りをもらう。
ウィトレスがいる間は大石はウェイトレスに夢中なようだった。
ウェイトレスが去っていく様子(というか尻)をまじまじと見つめていた。

露伴「で?何が妙なんだよ。」
大石「おおっと、見とれてましたよ。すみませんねぇ。なっはっは。」
露伴「(このエロ狸め。)」
大石「露伴さん、確認してもいいですか?
   あなたはさっき私から話を聞くまで、富竹さんと鷹野さんが死んだことを知らなかった。
   間違いありませんね?」
露伴「あぁ、さっきアンタから話を聞くまで、誰が死んだのか知らなかったよ。
   いや、アンタから話を聞くまで死んだ人間がいるってことすら知らなかった。」
大石「するとですねぇ、妙なことにになっちゃうんですよ。
   ここからは私が独自に手に入れた情報で警察の捜査ではないんですがね。
   岸辺さん、お魎さん宛てにお手紙書いてますよね?園崎お魎さん。ご存知ですよね?」

98 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 22:47:00.06 ID:aOEIPPP10
露伴「あぁ、魅音ちゃんの祖母だろう。」
大石「手紙の内容、覚えてます?」
露伴「・・・。」
大石「岸辺さんがお手紙を書いたのっていつですか?
   さっき私に話を聞いてからお手紙書いたんじゃないと、
   ちょーっと妙なことになっちゃうと思うんですが。」
露伴「ふ・・・ふふふふ。アッハッハッハッハー。」
大石「んっふっふっふ。どうしたんですぅ?
   何かおもしろいことでもありました?」

大石は露伴が負けを認めたと思い、ニヤニヤと露伴を見つめた。
この手紙の話は大石にとって切り札だったからだ。

99 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 22:48:04.39 ID:aOEIPPP10
露伴「いやぁ・・・は、ははは。予定通りに事が進みすぎてね。
   ついおもしろくて笑っちゃったんだよ。」

大石のニヤニヤは一瞬で消え去った。
自分の切り札を見せて、予定通りだと言われれば誰だってそうだろう。

大石「予定通り・・・ですか。何のことですかねぇ?」
露伴「いやいや、こっちの話ですまない。
   で、どこが妙な話なんだい?」
大石「・・・あんた。人を馬鹿にしてんの?
   ここまで言ってわからないって言い訳は苦しくない?うぅん?」

大石は凄んでみせる。
いつもの大石なら、飄々と露伴をかわして追い詰めようとするところだ。
だが露伴の独特の雰囲気に大石は焦りを感じていたのだ。

100 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 22:49:11.96 ID:aOEIPPP10
露伴「言葉遊びになっちまうがね。
   僕は、二人が"死んだ"のは知らなかったと言ったはずだよ。
   二人が、"死ぬ"のは知っていたけどね。ふふふ。」
大石「なるほど・・・。岸辺さんは二人が死ぬことは知っていた。
   だが本当に死んだかどうかは、私に聞くまで知らなかったと。
   そういうわけですかな。」

すぐに大石は冷静さを取り戻した。
いや、胸の中は逆に興奮していた。露伴の二人が死ぬのを知っていたという言葉。
大石はこの言葉を聞き出すために露伴に会いに来たといっても過言ではない。
大石は興奮する自分を抑え、できるかぎり冷静なふりをするよう勤めているだけなのだ。

大石「私の勘違いだったようですね。そのことは謝ります。
   ただ、お二人が死ぬのを知っていたとなると、詳しくお話を聞かないといけませんねぇ。」
露伴「あぁ、詳しく教えてやるよ。いつか、ね。」
大石「ほーぉ、いつ教えてくれるんですかねぇ。
   取調室に来てもらってからということですかぁ?」
露伴「ふふふ、まさか。
   とりあえず、いまアンタに教えるのは僕にとって得じゃないんだ。」

101 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 22:50:36.61 ID:aOEIPPP10
大石「・・・。
   そこまで喋っておいて、ただで帰れると思ってんですか?」
露伴「今すぐ僕を捕まえるっていうのかい?
   お魎への手紙は、押収できてないんだろ?」
大石「押収してないと、思いますか?んっふっふ。」
露伴「ハッタリはやめろよ。あの手紙はアンタを釣るためのものなんだ。
   お魎に渡せば、警察に押収されることはないからな。
   園崎家の情報屋から情報を得ているアンタだけを釣るためのものなのさ。」
大石「・・・。」
露伴「まぁ、そう睨むなって。
   釣りってやつはさ、ちゃんと餌がついてるんだぜ?」
大石「どういうことです?」
露伴「あの手紙は言ってみれば撒き餌。アンタを呼び寄せることはできる。
   だが、あんたという駒を釣り上げて自分の手駒にするにはちょっと役不足だ。
   アンタを釣り上げるための餌は別にちゃんと用意してある。」
大石「・・・私を餌で釣ろうってんですか。」
露伴「おいおい、別に金でなんとかしようってわけじゃあないんだぜ。
   アンタにひとつ情報をやる。それで、僕を信じてほしいんだ。」
大石「どんな情報ですかな?聞いてみないとなんとも。」

103 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 22:51:14.17 ID:aOEIPPP10
露伴「鷹野三四が生きている。」
大石「岸辺さん、あんまり変なことを仰ると捜査妨害になりますよ。
   私はそのほうが助かりますがねぇ。」
露伴「僕の言ってることが嘘だとわかったなら、捜査妨害にでもなんでもしてくれ。
   鷹野三四の死体は偽装死体だ。アンタなら確認できるだろう?」
大石「おんやぁ、本気で言ってるんですかぁ?
   確かにあっちの県警にも知り合いはいるんで確認はできると思いますが。」

そう言うと大石はなにやら考え事を始める。
露伴はただ何も言わずに大石の考えがまとまるのを待つだけだった。

大石「・・・コーヒーのお替りもらいますかねぇ。」
露伴「いや、僕はもういいよ。」

105 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 22:51:58.34 ID:aOEIPPP10
大石はウェイトレスを呼び、コーヒーをもらう。
だが、今度はウェイトレスに夢中になることはなかった。
4杯目のコーヒーを口にしてから、大石は口を開く。

大石「岸辺さん。あなたがなんでそんな話を私にしたのか、いくら考えても思いつきません。
   そこは教えてもらえますかねぇ?」
露伴「僕は、鷹野三四に接触したい。鷹野が偽装死体だとわかれば、アンタは鷹野を探すだろう?」
大石「私を使って鷹野さんを探し出そうっていうことですか。
   鷹野さんに会いたい理由は?」
露伴「それは"まだ"教えない。」


大石「わかりました。信じましょう。」
露伴「信じてはないだろう?」
大石「んっふっふっふ。鋭いですねぇ。」

107 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/10(日) 22:53:16.52 ID:aOEIPPP10
露伴「捜査妨害なら、僕を逮捕する理由ができる。
   もし鷹野が生きているのが真実なら、鷹野を探さなくてないけない。
   なら偽装死体であることを知っていた僕は鷹野の仲間かもしれない。
   鷹野が接触してくる可能性も考えて、僕は逮捕せずに泳がせておく。」
大石「あなたには隠し事をしてもお見通しのようですからねぇ。
   その通りです。ですが、お互い利害が一致したんじゃないですかな?」
露伴「あぁ、僕はアンタが鷹野を炙り出してくれれば満足さ。」
大石「このあと、署まで来ていただいていいですかな?
   岐阜のほうに連絡をとって確認しますので。」
露伴「おいおい、岐阜って言っちまっていいのかい?
   僕が岐阜って言ったらそこに突っかかるつもりじゃなかったのかよ。」
大石「んっふっふ。あなたにそういう手は効かないというのはよくわかりましたからねぇ。」
露伴「そりゃ結構。」

大石が残ったコーヒーを一気に飲み干すと、二人は店を出た。

176 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/11(月) 02:17:50.21 ID:HNkVoWXs0
露伴は小さな会議室で大石を待っていた。
大石が岐阜県警に連絡に行ってからかなりの時間がたった。
途中、署内を取材でもしようかと思ったが、扉を開けると大石の部下が待ち伏せをしていた。
トイレ以外は部屋から出さないと言われたので取材はあきらめる。

それからさらに長い時間が経つ。
露伴は座ったまま寝ていたが、傾き始めた太陽の光が露伴の目を覚まさせた。

露伴「ん・・・、眩しいな。
   もう4時過ぎか・・・。」

ガチャリ。
露伴が目を覚ますのを待っていたかのようなタイミングでドアが開いた。

177 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/11(月) 02:22:31.02 ID:HNkVoWXs0
大石「いやぁ、すみませんねぇ。お待たせしちゃって。」
露伴「で、どうだったんだよ。」
大石「いやぁ、どうもあちらさん、話が通らなくって長引きましたよ。」
露伴「結論は?」
大石「残念ながら、偽装死体とは確認できませんでした。」
露伴「・・・そいつは予定外だ。」

露伴がそう言った瞬間、大石は凍りつく。
露伴から今まで感じたこともないプレッシャーを感じたからだ。
いままで大石はいくつもの修羅場を潜り抜けてきた。だがこんなプレッシャーは感じたことがない。
危険が伴うとか、死ぬ可能性もあるとかそんなもんじゃあない。
いまこの男がその気になれば自分は今すぐに殺される。絶対に殺される。
扉の外に待っている熊谷に助けを求める間もなく。大石はそう思った。

大石「おっとぉ、変な気を起こさないでくださいよぉ?
   まだ私の話は終わっちゃいませんからねぇ。」
露伴「どういうことだ?」

180 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/11(月) 02:24:07.12 ID:HNkVoWXs0
露伴が大石の話に耳を傾けると、プレッシャーはどこかへ消えた。
露伴が天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を出すのをやめたからだ。

大石「偽装死体だという確認はできませんでしたが、おもしろい情報が手に入りました。
   私、柔道部の繋がりで知り合いがいましてねぇ。
   その方に聞いたんですが、鷹野の死亡時刻、あわないそうなんですよ。」
露伴「(・・・危なく能力を無駄に使うところだったな。)」
大石「胃の内容物などからの判定だと、死後24時間以上経過しているらしいんです。
   ですが、私がお祭りの会場でお会いしちゃってますので、どうも矛盾しちまうんですよ。
   まぁ、岐阜さんは歯型の確認の結果、鷹野の死体だと言ってるんですがね。」
露伴「なるほど、じゃあ確認ができないだけで、まだ偽装死体じゃないと決まったわけじゃないんだな。」
大石「えぇ、それでですね、明日私が自分で確認に行ってきます。
   直接会って話さないとケリがつきそうにないですからなぁ。」
露伴「そうしてくれ。僕も捜査妨害で逮捕されるのはごめんだからな。」
大石「それでですね、露伴さんには明日、私が岐阜に行くのに同行してもらいます。」
露伴「・・・なぜだい?」

183 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/11(月) 02:27:20.71 ID:HNkVoWXs0
大石「逃げられちゃあ困るというのが正直なところです。
   さっきよりはあなたを信じる気になりましたがね。
   これであなたを帰して、明日の間に逃げられたとなっちゃあ笑い者です。」
露伴「いいだろう。すると、今日は僕はここで泊まりかい?」
大石「いえ、雛見沢にお送りしますよ。朝まで部下を神社に張り付かせます。
   さすがに逮捕するまえに拘束することはできませんから。」
露伴「そうかい。逃げる気はないから安心しろよ。」
大石「それじゃあ、部下が車の用意をしてますので、こちらへどうぞ。
   岸辺さんと話す時間は明日もたっぷりありますからねぇ。」
露伴「これ以上の情報は今のアンタには教えないぞ。
   厄介なことになりかねないからな。ふふふ。」
大石「今の私・・・ですか・・・?」
露伴「こっちの話さ。」

185 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/11(月) 02:28:30.44 ID:HNkVoWXs0
大石は玄関まで露伴を案内する。
露伴が玄関を出るときには、1台の車がすでに玄関前のロータリーで待機していた。
大石は車の後部座席のドアを開け、露伴に乗るように仕草をする。
露伴が車に乗り込むと、大石は扉を閉める前に部下に聞こえないように言った。

大石「そういえば大切なことを聞き忘れてました。
   来年からは祟りは起きないというのは・・・本当ですかねぇ?」
露伴「僕がイエスと言えば信じるのかい?」
大石「オヤシロさまの使いの予言ですからねぇ。んっふっふっふ。」
露伴「園崎家の情報屋っていうのはだいぶ優秀なんだな。」
大石「えぇ、長い付き合いですから。」
露伴「オヤシロさまの使いが予言をはずすと思うのかい?」

露伴はそう言って自分でドアを閉める。
すぐに車は発進して署の敷地から出て行った。
大石は車が見えなくなったのを確認して署内へと戻った。。

大石「(おやっさん・・・祟りは今年で終わりだそうです。
    真相を暴くのも、今年で終わりにしないといけませんねぇ。)」
大石「熊ちゃんッ!明日は岐阜に行きますよぉ!!
   準備お願いします。鑑識のじぃさまはまだ署にいますかぁ?」

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